hemVR開発ストーリー


きっかけは、VRと運動の融合を目指した、4年前でした。その頃からVRとフィットネスバイクを組み合わせるものはありましたが、高い、面倒、不快、の三拍子で、買いたいと思えませんでした。では自分で作れないか、がスタートでした。

 

まずは不快さをどうにかしたかった。VRをやった人ならわかると思いますが、VRヘッドセットは運動に向いてません。顔の上半分に密着するので、汗をかいたときの不快感といったらもう・・。そこで考えたのは、顔の密着を避け、ヘッドセットが身体に触れるのは、頭の周りのベルト部分だけにできないか、ということでした。ちょうどテニスプレーヤーがつける、ヘッドバンドの部分です。あれだけ汗をかくテニスプレーヤーに、ヘッドバンドがずっと頭に触れているのだから、あの部分ならヘッドセットも触れていても良いのではないか、と思いました。

 

まずは家族に内緒で、ベッドの下にあるイケアで買った大きなプラスティック箱を、細長い板状に、ジョキジョキはさみできって、それをベルトのように丸め、頭にはめてみました。

 

そしてスマホの重さを量ったら200gほどだったので、それより少し重めのガラスの置物を、その即席ベルトの前の部分に両面テープでくっつけて、室内で、踏み台昇降運動を30分ほどやりました。汗だくになりましたが、汗も重さもそれほど気になりませんでした。ゴーです。あとはラフなスケッチを鉛筆で描き、ネット上でグラフィックデザイナーを探し、本物っぽい画像を作ってもらい、意見交換を経て、お決まりの、プロタイプ→サンプル→製品化の流れです。

 

 

2本のアームで本体を支えるスケッチ案。このスケッチが3Dデザイナーにかかれば・・

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こんな風になりました

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プロトタイプというのははっきりいって、サンプルの劣化版で、とても企業様に見せることができる完成度ではないが、知り合いなどに見せて、その反応を見ることができるものです(と少なくともわたしはそう理解してます)。画像ができたあとは、それを3Dプロダクトデザイナーに送り、どのように組み立てるか、調整部分はどうするかなどをデザインしてもらい、できたデータをもとに3Dプリンタで印刷して、プロトタイプの出来上がりです。

 

 

本体は紙を使った稚拙なプロトタイプ。とても企業様にはお見せできません・・

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実はデザインは2種類あって、本当はこちらが画期的で特許を取ろうと考えていたのです。

 

本体を一本のアームでつるし、頭の後ろで支えるデザイン

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重いヘルメットや帽子など、ぜったい前にずり落ちますよね。だから力点を後ろにかかるようにすれば、バランスがとれて、前にずり落ちてこないと考えたわけです。考えた当初は、これは画期的だ天才だと思ったものです。しかし、重さを支えるアームの強度などを考慮してもらい、現実的にはこうなると3Dデザイナーから見せられて・・・

 

 

(笑)

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びっくり仰天。と同時におのれの愚かさを笑っちゃいました。後ろにつなげても、結局、重さは前にくるから、前にずり落ちてしまうんですね。しかしこのアイデア、ただでは消えません。結局、完成品は、軽量化のために、1本のアームになったのです。ただし後ろではなく、前につながる、超短いアームです。

 

同時に、スマホ用アプリと、運動センサーのプロトタイプも作らなくてはなりません。実際に試してもらわないと、役に立つフィードバックがもらえないからです。コンセプトだけを見せても、テキトーな感想がくるだけです。幼稚なものでも、最低限の体験をしてもらわないと、ちゃんとした反応はもらえません。なぜちゃんとしたサンプルを作らないか?もちろん反応が悪ければ、止めるためです。幼稚なプロトタイプなら数万~数十万円でできますが、企業様に見せるサンプル作りにはもっとお金がかかります。ニーズがないのなら、止める。まずはプロトタイプを身近な人に見せて、ニーズを見極めるのです。

 

アプリは、あまり経験のない若い人に安く作ってもらいました。ゲーム性もなにもない、ただ自転車を漕ぐと、馬が走る、それだけです。

 

ただひたすら馬に乗って走るだけ・・・。でもちゃんとフィットネスバイクを漕ぐスピードと、馬が連動するんです

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運動センサーは、機械工作が得意な人に、はんだ片手に、手作りでお願いしました。大きく不格好ですが、ちゃんとアプリと連動し、バイクを漕ぐ速さも正しく検知します。あっという間に仕上げてしまい、餅は餅屋だなあと感心しました。アプリとセンサーを連動させる必要があるので、お二人には直接やりとりをお願いしました。

 

手作りセンサーの中身と外見

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ちなみにhemVRの運動速度センサーは、ステップマシンやトレッドミルなど、フィットネスバイク以外では使えません。ちゃんとフィットネスバイクのサドルの回転数と時間を計算し、それを速度に直しているからです。だから別にこういう器具でも使えます。

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プロトタイプの反応は上々でしたので、サンプル作りに進みます。ここで、VRヘッドセットの特許をとっておこうと思い、世界一この製品にニーズがあるであろうアメリカ市場の弁護士をネットで探し、申請をお願いしました。日本の方は自分たちでできるので、最終確認だけを弁理士先生にやっていただきました。時間はかかりましたが、米国でも日本でも取得できました。

 

米国の特許(手前)はかっこいいですね

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プロトタイプからサンプルへ・・

さてここからはサンプル作りです。企業様にお見せするものなので、ほぼ完成品に近いものにする必要があります。VRヘッドセット、アプリ、センサー、すべてプロトタイプとはけた違いの完成度に仕上げなくてはなりません。

 

 

まずはVRヘッドセット。これはプラスチックを使うので、それには金型という、プラスチックを流し込んで使う器具が必要になります。新車が買える値段です。残念ながら、サンプル作りのために払える状況ではありません。サンプルを企業様に見せて、全滅なら、白紙です。撤退です。その場合、サンプル費用はすべて無駄になります。そこで、3Dプリントで印刷し、それを紙やすりでピカピカになるまでこすり、その上からスプレーで塗装する方法を選びました。Youtubeで、仕上げ動画を探し、紙やすりのかけ方やら、へこんだ部分を埋めるフィラーなるスプレーやら、塗装のやり方など、見よう見まねで、自分の手で作りました。なかなかの仕上がりで、企業様にプレゼンしても、とくに指摘は受けませんでした。

 

失敗品の数々

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2本アームから1本アームへ。なんとか形になっていきました

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そしてアプリ。実はこれが失敗してしまいました。ちゃんとセンサーと連動し、ゲーム性のあるアプリが完成したのですが、なにぶん絵のレベルが低すぎました。ゲーム性を重視しすぎて、グラフィックが幼稚すぎたのです。わたしたち製作側からすると、ゲーム性を試してもらいたいのですが、テストする側からすると、まずは、見た目がすべてなんですね。グラフィックが稚拙だと、もうそれだけでバカにされてしまうのです。ゲーム性はなかなかでした。スピードメーターが表示され自己最速を目指す、クマが追いかけてくるので逃げ切ったら表彰されるが追いつかれたら食われる、多くの動物と競争し追い抜くと動物が吹っ飛んでいく。前に立ちふさがる30メートルのモンスターを、時間内にシューティングアイテムをゲットして、撃たなくてはやられてしまう、しかし勝ったらダイナミックな大きな音とともにズシーンと倒れる。過去の自己最速スピードの車が現れ、過去の自分と競争する、などなど。リモコンなしでも楽しめるミニゲームをありったけ詰め込んだ渾身の作だったのですが。。残念です。もうひとつの失敗は、個人個人を雇ってしまったこと。複数のプログラマとグラフィックデザイナーなど、ばらばらに雇ってしまったのです。例えば、あるプログラマがエラーを起こし、その修正を他のプログラマに頼みます。うまくいかないとお互い色々主張しますが、どっちが正しいのやら…。ゲーム制作の経験も知識もないわたしたちはこれに懲りて、以降はゲーム会社に委託しています。もちろん、何十ページというゲームの企画書を作りこみ、詳細までこちらで詰めてからの外注です。ゲームを作った経験はちゃんと生きています。

 

 

プレゼンしたサンプルゲーム。いま見るとたしかに絵が・・・

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速度センサーは、3つの中では一番楽でした。手作りのときは、色々なセンサーを詰め込みましたが、結局、三軸の加速度計があれば良いという結論にいたったので、余計なものをそぎ落としたので小さくなり、シンプルでバッテリー持ちの良いものに仕上がりました。ただしそぎ落とした結果、プロトタイプはフィットネスバイクのペダルにとりつけられましたが、完成品は垂直にしないと、正確な速度が測れないため、フィットネスバイクのクランク部分にくっつけるか、靴下に入れる仕様になりました。フィットネスバイクのペダルにつけると、ペダルがグラグラ揺れますから、そのノイズデータのために、1つのセンサーでは手に負えないためです。

 

完成品の外見と中身

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センサー作りで唯一冷や汗をかいたのは、プラグイン製作でした。プラグインはいってみればソフトウェアの一種で、Bluetooth機器である運動センサーとスマホのアプリをつなげる薄いレイヤーのようなものですが、これを手掛けることができる人は世界でもそんなに数が多くなく、しかも依頼しても、成功するか否かは、まとまったお金を払った後で、取り組んでもらわないとわからない世界なのです。何人かに依頼を打診しましたが、みな、成功は保証しない前金〇〇万円を払え、そればかり。正直、もう資金はつきかけています。失敗するかもわからない仕事に大金は払えません。そこで人探しの方法を変えました。いままでは、ネットで、プラグインプログラマを求人サイトで世界中で探していたのですが、逆に、同種のプラグインを探し、その製作者を辿っていくことにしました。見つかりました。アメリカにいました。求人サイトには登録しないようなディープな人ですが、前金を請求することなく、引き受けてくれました。よかったあ。そんなこんなで、ヘッドセット、アプリ、センサーのサンプルができました。

 

で、サンプルを企業様に見せてどうだったのか。アプリが微妙だったのですでにVRを経験した人にはイマイチだったのですが、はじめてVRをやる人にはインパクトがあったようで、おおむね反応は良かったです。中でも印象的だったのは、自分の父親に見せたときですね。普段運動をやらない人なんですが、これを試してもらったら、夢中になって漕いでいました。うれしかったです。あとは関西の高齢者ホームにいって、介護士の方のサポートの元でおばあちゃんやおじいちゃんに試していただいたり、ゴールドジムにいってスタッフの方にジムのバイクで試してもらったり、色んなところでトライしていただきました。ありがとうございます。と、ここまでが2年前。

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はい。ゴーです。大量生産です。

 

 

そして2021年現在。ヘッドセットとセンサーの量産体制は完成です。センサーは日本の技適だけでなく、欧米のFCC,HoHS,CEも取れました。アプリも完成し、GoogleプレイとAppStoreにアップされています。サンプルのプレゼンから、もう2年近くたちましたから。もちろんゲーム会社に外注した、立派なゲームなのは、上に載せたとおりです。サンプルと比べてグラフィックに凝っただけではありません。VR酔いのために大幅な変更を加えました。サンプルのプレゼンのときには、バイクを漕いだスピードと、ゲーム速度が、わかりやすく連動している必要があります。速く漕ぐほどゲーム内でも速く進み、漕ぐのを止めたらゲーム画面もストップする、という仕様にしました。これはプレゼン先で受けがよく、ペダルを漕ぐ速さとゲーム内のスピードがシンクロしているのを、すぐに実感いただけました。しかしこれは実際の使用には向いていません。ゲーム画面の速度がころころ変わると、酔って気持ち悪くなるからです。他のVRゲームなら良いかもしれません。なぜならVR酔いで気持ち悪くなったらやめればいい。しかしhemVRアプリは、運動のお供です。せっかくの運動を酔いのために邪魔してしまったら本末転倒です。そこで、ゲーム画面の速度はhemVR Eagle とhemVR Videoでは一定にして、hemVR Cosmoではわずかに変わる程度に変更しました。Eagleは上下左右に自在に動けるし、Videoは実写の再生速度が変わると違和感を感じやすいためそうしました。Cosmoは、漕ぐスピードと、ゲーム画面の速度はシンクロしていますが、ほとんどわからないようにしました。テストしてもらうと、漕いでないのに画面が進んでいる、ゆっくりこいでも速くこいでも画面が変わらないなど、受けが悪いですが、長く続ければわかっていただける、としか答えようがありません。ただし、運動データはちゃんと取っています。その証拠に、漕ぐのを止めると、画面にリアルタイプ表示されている運動時間はすぐに止まります。またゆっくり漕いでいたら、消費カロリーの表示はほとんど増えません。画面は変わらずとも、アプリ側は、しっかり運動量を把握してるんです。

 

 

上下左右に動けるEagle

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再生速度を一定にしたVideo

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画面速度は変わるけど酔わない程度に微調整したCosmo

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最後までお読みいただきありがとうございます。

おかげさまでhemVRは4年の歳月を経て2021年より販売開始の運びとなりました。

お世話になった方々へ重ね重ねお礼申し上げます。<(_ _)>